野村ホールディングス2200億円の損失の概要と今後の見通し、株価への影響について

先週末、株式市場を賑わせた「ブロック取引」。そこに来て今度は、日本が誇るアジア最大の投資銀行である野村ホールディングスが20億ドル(約2200億円)の損失を出したいう報道が一斉に流れました。

一体何が起こっているのでしょうか。今回は、その一連の騒動の概要と今後の見通しや株価への影響について見ていきたいと思います。

野村HD、巨額損失の概要

では、なぜ野村HDは巨額の損失を負ったのでしょうか。1つずつ詳しく見ていきましょう。

発端はファミリーオフィス「アルケゴス」

まず今回の件で、発端となったのは「アルケゴス」こと、アルケゴス・キャピタル・マネジメントと言われています。

引用元:Sankei Biz   アルケゴス・キャピタル・マネジメントのビル・フアン氏

アルケゴスは、米ヘッジファンドであるタイガー・アジア・パートナーズの元マネージャーだったビル・フアン氏が立ち上げたファミリーオフィス(個人資産を運用する投資会社)です。その運用資産額は、2020年時点で100億ドル(約1兆1千億円)にも上っていました。

フアン氏は、2012年にインサイダー取引と中国の銀行株の相場操縦で米証券取引委員会(SEC)に提訴され、和解条件として投資顧問業界で働くことを禁止されていましたが、同氏はすぐにファミリーオフィスとしてアルケゴスを設立しました。

この『ファミリーオフィス』というのが、今回の件の肝になっていると思います。なぜなら、ファミリーオフィスはヘッジファンドなどとは違い、投資顧問業者としてSECに登録する必要もなく、所有者や幹部、運用資産額を開示する義務もないのです。この盲点を突き、かなりのレバレッジをかけてデリバティブ(金融派生商品)のポジションを積み上げていたようです。

投資銀行を使った「シャドーバンキングシステム」

そして、アルケゴスの取引に関与していたのが、野村HD、クレディスイス、ゴールドマンなどの世界の投資銀行です。本来であれば、米国株を1億ドル超を保有する投資業者は、四半期末に保有資産について規制当局に報告する必要があるのですが、フアン氏は届け出を行ったことがありません。

その理由は各投資銀行が、アルケゴスに対して株式に関連したスワップや差金決済取引(CFD)などのデリバティブを提供していました。要するに、アルケゴスの代わりに投資銀行が株式を購入して、その差分や配当などをアルケゴスが得るという「シャドーバンキング」と言われる形を取っていました。信用取引の様なイメージでしょうか。そしてこれには、今のところ規制がなく、莫大なレバレッジをかけることも可能となっています。

資産が膨らみ、レバレッジをかけすぎ、破綻へ

そして、その時はあっけなく訪れます。これまで、好調を維持していたアルケゴスのポートフォリオでしたが、24日に発表されたメディア娯楽大手の「バイアコムCBS」の新株発行による資金調達がその引き金となります。

バイアコム株は翌日9%の下落、さらにアルケゴスのポートフォリオに含まれると思われる他の株式も続いて急落し、25日の取引終了時点でポートフォリオの価値は、27%も減少しました。

この値下がり額は、6~8倍のレバレッジをかけていたとみられるアルケゴスの資本以上になり、3月26日に野村HDやクレディスイスなどのマージンコール(証拠金請求)について債務不履行に陥いったという流れです。

各投資銀行がアルケゴスの資産を投げ売り 野村HD、クレディスイスは逃げ遅れた

債務不履行となったアルケゴスですが、25日(木)にゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレー、野村HD、クレディ・スイスなどのアルケゴスと取引していた投資銀行で話し合いが持たれたそうです。そこでは大規模な売却は控え、週末に話し合いを続けようという提案がされたものの、結局合意には至らなかったようです。

そこで、ゴールドマンとモルガンスタンレーは先んじて売却、被害を最小限に抑えました。

引用元:Trading view

こちらはバイアコムの日足チャートです。25日と翌26日では、かなり大きな価格差があるのが分かります。少し卑怯にも思えますが、それが金融の世界でしょう。

そして、各報道を見ると、「損失が発生する恐れがある」とあるので現在含み損の状態なのでしょう。今後、同株価がどうなるのかによって、野村HDの損失も変わってくる可能性があります。

今後の見通し、株価への影響

では、野村HD及び株式市場全体の株価はどうなっていくのでしょうか。順番に見ていきましょう。

野村HDの今後について

まず、野村HDから見ていきます。

引用元:Trading view

こちらは野村HDの日足チャートです。かなり大きく下げていますね。同社は、海外事業の拡大に力を入れてきており、これまでは順調でした。しかし、今回の損失は金額面よりも信用面の方が大きいような気がします。

実際にJPモルガンは30日に、野村HDの投資判断を「ニュートラル」(中立)から「アンダーウェイト」(弱気)に引き下げています。さらにレポートでも、「クレディ・スイスと野村がなぜ現時点でポジションを全て解消できていないのか理解に苦しんでいる」と指摘しています。

参考サイト:Bloomberg

今回の様な世界的なニュースで、巨額損失を出したとなると資金調達などにかなり弊害が出てくることでしょう。

引用元:Trading view

 

こちらは、野村HDの月足チャートです。かなり上髭の長い陰線になっています。株価的に見ても、今後数ヶ月、長ければ数年低迷する可能性もあると考えています。

株式市場全体への影響

株式市場全体への影響は、かなり限定的なものになると考えています。

こちらは、バイアコムやアルケゴスのポートフォリオに入っていたとされている百度(バイドゥ)などが採用されているナスダック総合指数の日足チャートです。

騒動があった26日の足を見てもほぼ無風状態であることが分かります。今回のアルケゴスに関係する株式売却は200億ドル(約2兆2000億円)強とも言われていますが、逆にこれしきでは崩れない、今の相場の強さが分かるきっかけにもなったのかなと思います。

まとめ

資産100億ドルのファミリーオフィスが破綻まで陥った今回の騒動。レバレッジの怖さ、リスク管理の重要性を再認識する機会にもなりました。また、ファミリーオフィスについて今後何らかの規制が掛かるきっかけにもなるかもしれません。

野村HDについては、今後の対応がかなり重要になってくるでしょう。金額面の損失はもちろん痛手でしょうが、世界的な信用の損失にもなりかねないと思います。一方で、全体の株価への影響は今のところは、ほとんどないと考えています。

 

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