新型コロナの影響による経済の落ち込みが一時期の最悪な状況を脱する中、世界的な「半導体不足」が新たな問題として生じています。
半導体不足が原因で、ゲーム機をはじめとする家電製品が品薄状態になっているという話を聞いたことがある方は多いでしょう。
本記事では世界的な半導体不足の現状と要因、今後の見通しについて説明していきます。
Contents
半導体とは?
そもそも半導体とは一体どのようなものなのでしょうか。
電気をよく通す導体と、電気を全く通さない絶縁体の中間に位置する物質で、使い方によって通電性能が変わる特殊な物質を半導体といいます。電気以外の光や熱、放射線などをあてることで様々な物に応用ができるのが特徴です。一般的には、この半導体を利用して作られる集積回路(IC)やダイオード、トランジスタなどの電子部品をまとめて半導体と呼んでいます。
今日では半導体はありとあらゆる箇所に使われており、「産業のコメ」と呼ばれ生活に必要不可欠な製品となっています。
半導体の市場環境
技術革新のスピードが速いため、半導体市場でシェアを拡大するためには巨額の研究開発費と設備投資を要します。
また、半導体市場の企業は主に以下の3つに分けられます。
- 設計から製造までを一貫して担う統合型企業
- 設計のみを行うファブレス企業
- 製造のみを行うファウンドリ企業
分業を行う場合は、ファブレス企業からの発注を受けたファウンドリ企業が、実際の製造を行うという仕組みです。
米国のインテル、韓国のサムスン電子、SKハイニックスが半導体製造メーカーとして世界的に高いシェアを誇っています。
台湾のTSMC(台湾積体電路製造)も有名な企業ですが製造受託専業のファウンドリ企業のため、半導体製造メーカーとして売上高ランキングに掲載されることはほとんどありません。しかし実際は時価総額が約60兆円でインテルの約2倍となっています。トヨタの時価総額が約30兆円であることを考えると、半導体市場の規模はかなり大きいと言えるでしょう。
半導体不足の現状
2020年秋頃から、半導体不足が叫ばれるようになり様々な方面に影響を与えています。当初はパソコンやスマホ関連の商品や家電商品への影響が大きくなっていましたが、現在では自動車メーカーをはじめとする製造業全体に影響が及んでおり、「部品が足りず納品ができない」「商品供給量が少なく値上げせざるを得ない」といった状況が引き起こされました。
半導体不足により、大手企業からは続々と生産減少・納期遅延の発表がされています。
- ソニー:カメラやレンズが半導体不足で納期遅延、PS5の品薄状態は2022年度末まで続く見込み
- アップル:チップ不足により iphone1,000万台減産予定
- 任天堂:ニンテンドースイッチ150万台減産
- トヨタ:部品供給不足や半導体不足により、2021年10月国内生産台数が前年同月比50%減
その他にも家電量販店では、エアコンや洗濯機、液晶テレビの品薄状態が続いているようです。
半導体不足の要因
世界的な規模で半導体不足が引き起こされている原因としてはどのようなことが考えられるのでしょうか。おそらく「需要の拡大に対して供給が圧倒的に追いついていない」というのが一番の原因でしょう。
考えられる原因について細かくみていきます。
新型コロナ感染拡大の影響に伴いハイテク製品への需要が急増した
新型コロナの感染拡大は、リモートワークの浸透や在宅時間の増加といった変化をもたらしました。パソコンやスマホはもちろん、テレビやゲームといった家電製品全般に対する需要の増加に供給が追いついていません。
またカーボンニュートラルや電子商取引が推進されていることも、ハイテク製品への需要が高まっている要因の一つです。
予想以上の経済回復に伴い需要が拡大した
コロナによる経済不況からの回復が供給側の想定を上回り、需要が拡大し続けているのも原因として挙げられます。
米国SIA(米国半導体工業会)によると、2021年8月の半導体世界売上高は471億8000万米ドルに達しており、4ヶ月連続で過去最高を更新しています。
自動車業界で言えば、2020年夏頃から世界最大の中国自動車市場が回復の傾向を見せ、秋には通常の需要に戻りました。IT機器であれば2020年度は2019年比でオフィス向けの需要が60%程度まで落ち込んだものの、コンシューマー向けが20〜30%ほど伸びており、2021年春頃からは通常の需要レベルに戻っています。
WSTS(世界半導体統計)による2021年春季予測では、2020年末時点で+8.4%としていた2021年世界半導体市場の成長率を、+19.7%と大幅に上方修正していることからも、予想以上に経済回復が進んでいるといえるでしょう。
半導体メーカーは注文を受けてから生産準備までに3ヶ月程度の時間が必要となるため、想定を超えて増加した需要については生産体制を整えることができません。
新しい工場建設のハードルが高く供給を増やしづらい
半導体産業は技術革新のスピードが速く、約4年周期で価格の上下を繰り返す「シリコン・サイクル」と呼ばれる景気循環が起こるため、供給を増やす目的であっても安易に設備投資をすると在庫を抱えるリスクがあります。工場の新設には何十億ドルもの費用がかかるうえ、2年以上の期間を要するため、製造企業は新しい工場への投資に消極的になっているようです。
最大手メーカーのインテルやサムスンでは工場の新設に投資していますが、2024年以降の稼働となるため直近での供給改善にはつながらないでしょう。
特定の半導体に需要が集中したことで生産が追いつかず供給が不足した
コロナ禍で需要が増加したパソコンやテレビ、自動車製造では、PMIC(パワーマネジメントIC)やDDIC(ディスプレードライバーIC)、MCU(マイクロコントローラー)といった種類の半導体が使われています。これらの半導体は、最先端の半導体が生産されている工場(12インチウエハー工場)ではなく、一世代前の半導体工場(8インチウエハー工場)で生産されているのですが、多くの半導体メーカーではコストがかかるため自社生産を行わずファウンドリー企業へ製造を委託していました。製造できる工場が限られている中で、一世代前の工場で生産する半導体への需要が一気に高まり、生産能力が追い付かず供給が不足するという事態に陥っています。
世界最大のチップ受託生産メーカーである台湾積体電路製造(TSMC)は、70億ドルを投資して旧式のチップを生産できる工場を建設すると発表しましたが、生産開始は2024年末となるため供給不足はしばらく続くでしょう。
大企業が買い占めることで市場全体への供給が不足した
一部の大手企業が工場の稼働停止や新型コロナ後の需要増大、などを見越して事前にチップを大量購入したことで市場への供給量が減った可能性があります。
一方で自動車業界は、全体的に需要回復の見通しを誤ったため、半導体部品の確保ができていない状況といえそうです。
相次ぐ自然災害による工場停止により供給が不足した
日本を含む世界各国で、自然災害による工場の操業停止が頻発し供給不足に陥った可能性があります。
以下が実際の事例です。
- 2021年2月 米テキサスで異常寒波に伴う送電停止
- 2021年2月 福島沖地震により数カ所の工場操業停止
- 2021年3月 ルネサス那珂工場にて火災が発生し操業
- 2021年9月 中国の大規模停電による工場操業停止
現在では操業を再開し、生産能力も元通りになっているところがほとんどですが、世界各国で複数回にわたり操業が停止している影響は少なくないでしょう。
また半導体の主要生産地である台湾では水不足に伴う生産への影響が懸念されており、今後も自然災害が供給に影響を与える可能性は高そうです。
中国への規制の影響で調達先が集中し供給が不足した
トランプ政権下で始めた米国による対中制裁の一環として、中国の半導体受託生産大手・中芯国際集成電路製造(SMIC)への輸出規制が発動されました。
規制に伴い、中国企業や米国企業が台湾企業に大量発注を行なったことで、調達先が集中し供給が不足した可能性が考えられます。
今後の展望
「半導体不足がいつ解消するのか」という点については各所で議論されており、結論はまちまちです。2022年度半ばには解消されるという楽観的な意見や、2023年末までは厳しいという意見もあります。意見にばらつきがあるのは、今回の半導体不足がそれだけ様々な要因が絡み合っているからだといえるでしょう。
需要に対して供給が追いついていないという事象は明らかであるものの、どの要因が一番大きく作用しているのかは明確になっていません。半導体のサプライチェーン自体が複雑化していることもあり、単純に解決する問題ではないでしょう。半導体関連の企業に勤める筆者の知人にも聞いてみましたが、原因はわからない、と答えた人がほとんどでした。
コロナが収束しなかった場合は、世界的な物流の混乱や工場の生産能力低下といった新たな問題が生じるでしょう。
各社の設備投資が進み、生産能力が明らかに上がった場合には次第に受給バランスが改善していくと思われるため、本格的に半導体不足が解消されるのは2024年以降になるのではないでしょうか。
一方で半導体業界にとっては、半導体不足の状況が追い風になっているといえます。今後の成長も見込めるため、よい投資対象となるでしょう。
日本の企業の場合、「半導体デバイス」のメーカーではなく、「半導体製造装置」のメーカーとして強みを持つ企業が多いです。米VLSIresearchによると、2020年の半導体製造装置メーカー売上高ランキングのTOP15社に7社の日本企業がランクインしています。
7社のうち最上位にランクづけされた東京エレクトロンの株価推移を見てみましょう。
参考:SBI証券
今年1年で150%近くの伸び率となっています。
参考:SBI証券
5年単位で見ても順調に成長しているため、一過性の伸びではなさそうです。
まとめ
半導体不足の背景や今後の見通しについて説明しました。
半導体不足には様々な要因が関係しているため、いつ現状が改善されるのか見通しが立てづらい状況ではあります。
ただし半導体の分野は、ハイテク製品の普及やデジタル化の促進により今後も需要が増えていく分野であるため、投資対象としては悪くないでしょう。成長性が高い分野であれば長期投資を行うのがおすすめです。
安定した投資先の一つとして、ポートフォリオの一部に加えてみるのはいかがでしょうか。
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