菅首相の辞任に伴い実施された自民党総裁選に勝利した、岸田文雄氏が先日第100代内閣総理大臣として任命されました。
アフターコロナを見据える中でどのような経済政策を実行に移し、国民生活を向上させていくのかというのは皆さんが気になっている点だと思います。
一方で、今までの政策とどのような違いがあるのか、また実際に株や為替にどのような影響を及ぼす可能性があるのか、いまいち分かりづらいと感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、岸田新政権の政策について詳しく解説しながら、市場で今後予想される展開について考察していきます。
Contents
岸田新政権の政策概要 キーワードは「新たな資本主義の構築
日本はここ10年ほどの間、安倍元首相が提言した「アベノミクス」を軸とした経済政策に取り組んできました。
大規模な金融緩和によって、デフレから脱却し戦後最長の景気拡大を実現したという点では一定の成果を残したと言えます。
一方で、そうした実績値と比較すると好景気の実感が湧いていないという声も多く聞かれます。
大きな要因としては個人消費が活性化していないという点が挙げられると思います。
個人消費を活性化させるための所得の再分配、すなわち中間層に対する賃金の引き上げが実現しなければ景気が好転したという実感は持ちづらいのではないでしょうか。
また、コロナ対策に苦慮して経済活動が停滞してしまったことも要因の1つでしょう。
このような背景を踏まえて岸田首相はアベノミクスを評価しつつ、「成長と分配の好循環」による「新たな資本主義」を構築するということをメインテーマにし、政策を発表しました。
アベノミクスを大幅修正するのか?
岸田首相は総裁選中、「小泉改革以降の新自由主義的政策を転換する」と会見で述べていました。
財政健全論者との前評判もあり、“アベノミクスの大幅修正”“アベノミクスからの転換”という見方をしているメディアもありますが、実態は少し異なっているようです。
財政政策
「財政再建の旗は下ろさない」としながらもプライマリー・バランス(基礎的財政収支)の黒字化目標は必要ならば先延ばしも考えなければならない。目標ありきではない。」という趣旨の発言をしています。
事実、首相就任後の10月8日の閣議では新たな経済対策の策定と今年度補正予算案の編成を関係閣僚に指示しており、規模としては数十兆円ほどを想定しているようです。
また、消費税についても「10年程度はあげることは考えない」と述べており、従来通りの積極的な財政政策を行なっていくと考えられます。
金融政策
10月8日の所信表明演説で次のように述べています。
“マクロ経済運営については、最大の目標であるデフレからの脱却、成し遂げます。そして、大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略の推進、努めます。”
また、以前に日銀が掲げる「2%の物価安定目標」については、「世界標準であり、変えるつもりはない。変えるとおかしなメッセージになる」と発言しています。
これらの視点から考えると、岸田新政権ではアベノミクスを”大幅修正する”、というよりも“踏襲し、ブラッシュアップしていく”という表現が近いように思えます。
おそらく、総裁選中に対立候補であった河野太郎氏との政策差別化、自民党の古い政治イメージからの脱却を狙って、「新たな資本主義の構築」というスローガンに拘っているのではないでしょうか。
具体的政策
岸田首相は「新しい資本主義」を実現するために経済政策の両輪として、“成長戦略”と“分配戦略”を上げています。
成長戦略4本柱
① 科学技術立国の実現
先端科学技術の研究開発・人材育成に投資するために、スタートアップ企業への徹底支援と10兆円規模の大学ファンドを年内に設置する。
② デジタル田園都市国家構想
地方と都市の差を縮めるために、5Gや半導体、データセンターなど、デジタルインフラの整備を進める。
③ 経済安全保障
担当大臣を新たに設け、戦略物資の確保や技術流出の防止に向けた取り組みを推進する。
④ 人生100年時代の不安解消
働き方に中立的な社会保障や税制を整備し、「勤労者皆保険」の実現に向けて取り組む。
分配戦略4本柱
① 働く人への分配機能強化
労働分配率向上を実現するために、非財務情報開示の充実、四半期開示の見直し、下請け取引に対する監督体制の強化、賃上げを行う企業への税制支援を行う。また、「1億円の壁」を念頭に金融所得課税の見直しについても検討する。
② 中間層の拡大・少子化対策
子育て世代への教育費・住居費への支援強化、子育て支援の促進を行う。
③ 公的価格の抜本的見直し
医師、看護師、介護士、さらには幼稚園教諭、保育士など、社会の基盤を支える現場で働く方々の所得向上を実現するために、公的価格のあり方を抜本的に見直す。
④ 財政の単年度主義の弊害是正
科学技術の振興、経済安全保障、重要インフラの整備など国家課題に計画的に取り組む。
具体的な数字目標などについては今後順次決定していくようですが、衆院選も控えているため、選挙の動向次第では現在の施策も若干方向性が変化する可能性もあるので注意が必要かもしれません。
株価・為替などへの影響
では実際にこれらの施策が株価や為替にどのような影響を与える可能性があるのか、順に見ていきましょう。
岸田ショック
株式市場では、岸田新政権が発足した日を挟んで、日経平均株価が8日続落しました。
参考:S B I証券
年初来高値をつけた9月14日から3000円程下がっています。
巷では「岸田ショック」とも呼ばれていますが、政策に対しての否定的な反応がダイレクトに株価に反映された、というわけではなさそうです。
今回の株価下落の要因は以下の要素が関わっていると言えるでしょう。
- 中国の恒大集団債務危機に端を発する不動産バブル崩壊懸念、金利上昇・原油先物高・輸送運賃の高騰などによる米国株の下落といった様々な要因が同時期に発生しており、日本株市場にネガティブな影響を与えていた
- 岸田内閣の組閣人事が指示を得られておらず、新政権への期待感がもてなかった
- 岸田総理が掲げる金融所得課税の見直しについて、投資家がネガティブな反応をした
様々な要因が重なって株価下落が起きていると言えるのではないかと思います。
ただし、金融所得課税の見直しについては、国がこれまで推奨してきた「貯蓄から投資へ」という方針に逆行するという指摘もあり、本格的な投資意欲の冷え込みにつながる可能性は十分あると考えます。
今後予想される株価への影響
一般的に、日本株市場においては、海外投資家が株価の値動きに与える影響が大きいと言われています。つまり今後の新政権下における株価というのは、「海外投資家に評価される施策かどうか」が重要な要素となってくるでしょう。
実際に歴代総理の株価推移を見ていきましょう。
この図で見ると、市場は小泉政権・安倍政権を評価していると言えます。
岸田政権がこれまでのアベノミクスを否定している、という印象を与えてしまうと株安になる可能性があるでしょう。
また、政策の関連銘柄としては環境・D X(デジタルトランスフォーメーション)・人材・医療・介護といった分野が、新型コロナ対策関連銘柄としては旅行・飲食といった分野が、株高が見込まれます。
ただし、ここ数年の傾向でいえば好調な米国株に牽引される形で日本株は株価上昇を続けてきました。今後もしばらくは、国内の政策に対する評価がダイレクトに株価に反映される、ということはないと思います。
大枠としては米国株市場がどちらの方向に動いているのかということが重要ですので、米国株市場が順調に推移してさえいれば、余程マイナスな印象を与える政策を掲げない限りは株高傾向は続くのではないでしょうか。
今後予想される為替への影響
前述したように、岸田新政権では大枠のマクロ経済政策についてはアベノミクスを踏襲する形になると考えられます。超緩和金融政策・積極的な財政出動を行う限りは円安傾向は続くのではないでしょうか。
実際のチャートを見てみましょう。
参考:yahooファイナンス
安倍政権退陣後一時的に円高がすすみますが、その後やはり円安傾向に戻っています。
また、コロナ対策の影響により、米国をはじめとした世界の中央銀行による量的緩和政策・財政出動で市場は金余りの状態です。
このような状況はリスク資産への投資が活発化する「リスクオン相場」を招くため、低リスク資産と言われる日本円は売られることになり、円安となります。
円高となる要素があまりないため、円安傾向が続く可能性が高いと思われます。
まとめ
岸田新政権の政策と株価・為替に与える影響について書いてきました。
現状では具体的な数値目標などが発表されていないため、今後特に衆院選後にどのような形で政策をまとめていくのか、それに対して市場がどのように反応するのかということをしっかり分析することが重要だと考えています。
ただ現状で言えば国内の政策がアベノミクスを踏襲する形から大きく変わらない限りは、海外要因での相場変動が主となる可能性が高いので、海外の動向に目を向けておくことも大切ではないでしょうか。
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